第16号


楽理科からのご報告

植村幸生(楽理科主任)

 2018年4月、私ども楽理科は学部24名、大学院修士課程4名、同博士課程3名、研究生5名を新たに迎えました。ここでは昨年度後期から今年度前期にかけて(以下、当該期間とする)の楽理科の主な動向についてご報告申し上げます。
 音楽学部では国内外の著名な芸術家や研究者、演奏団体等による特別講座を随時実施しています。楽理科が当該期間に開催した特別講座は下記の通りでした。

  • 2017.10.17.「Mulier fortis :気丈な貴婦人 細川ガラシャ」(アンジェラ・ロマニョーリ氏、新山カリツキ富美子氏)
  • 2017.11.10.「ボリビアの地方の音楽と都市の音楽」(ロランド・エンシーナス氏)
  • 2017.11.12.「ストラヴィンスキーのオペラ《マヴラ》」「西洋音楽史記述の諸問題」(リチャード・タラスキン氏)
  • 2017.11.21.「クルグズ(キルギス)の音楽:遊牧民の伝統と現代」(アンサンブル・オルド・サフナ)
  • 2017.11.28.「ベーレンライター社 ベートーヴェン原典版講座~ベートーヴェンが本当に表現したかったこと~」(ジョナサン・デル・マー氏)
  • 2017.12.13.「プロメテウスの音楽:ベートーヴェン2020年に向けて」(フランツ・ヴェルザー=メスト氏、マーク・エヴァン・ボンズ氏、近藤譲氏)
  • 2018.1.9.「インドネシアの現代音楽」(ディーター・マック氏)
  • 2018.4.17.「音楽大学生のための就職入門講座」(黒川照美氏、實方康介氏)
  • 2018.5.15.「音楽学のフロンティア(第1回)」(栗原詩子氏)
  • 2018.5.25.「”Some for Laughs, Some for Tears”: ジャズ、キャバレー、ユダヤ映画音楽」(フィリップ・ボールマン氏)
  • 2018.6.19.「音楽学のフロンティア(第2回)」(森田都紀氏)

 上記のうち「音楽学のフロンティア」「音楽大学生のための就職入門講座」は例年、楽楽理会会員のご講演を賜っており、在学生にとってよい刺激となっております。この場を借りて御礼申し上げます。
 研究のために個人レヴェルで海外に赴くことは楽理科では以前からごく当たり前にみられたことですが、最近は組織的な海外派遣の事例が増えています。2018年5月、香港中文大学で開催されたフォーラムEARS2018に、音楽学専攻の博士課程学生6名、修士課程学生1名、教育研究助手1名が参加し研究発表を行いました。同フォーラムは香港中文大学、台湾大学、ソウル大学、東京大学、および本学で音楽学を専攻する大学院生らによる研究集会です。参加者は同じ東アジア圏の若い音楽学者たちと英語で討論しながら互いの研究状況を確認し友情を深める貴重な機会を得ることができました。この催しへの参加には海外への派遣を支援する学内資金ASAP(Arts Study Abroad Program)の援助を得ました。なお同フォーラムは次回、2020年に本学を会場に開催される予定です。
 同じく学内プロジェクト資金による学生の海外派遣として、2017年12月に学生6名(学部4名、修士課程2名)がミャンマーに赴きました。これは本学が採択された「大学の世界展開力強化事業」の一環としてASEAN諸国の芸術大学との交流をはかるプログラムの一部です。6名の学生はヤンゴンとマンダレーで伝統的な合奏音楽サインワインの教習を受けつつ、受け入れ校(ミャンマー国立文化芸術大学)での口頭発表、楽器工房の見学などのプログラムをこなしました。この交流事業は2018年度以降も行われる予定です。
 毎年7月下旬に行われる学科説明会は、数年前から学部全体のオープンキャンパスの一部となっていますが、オープンキャンパス自体の規模が拡大するのに伴い、学科説明会への参加者も増えつつあります。7月21日に開催された今年度説明会では全体会に約200名、施設見学会に約100名、二つの模擬授業に各60名の参加者があり、楽理科の教育と研究を多くの方々に知っていただくことができました。その場では、同席した現役の学生が語るキャンパスライフや入 試経験談を熱心に聞く参加者の姿が多く見られました。一方、6月中旬の土曜日には大学院説明会を開催しており、今年度も学内外から40名ほどの参加者を得ました。楽理科から大学院音楽学専攻への進学者数は、横ばいかやや減少傾向にありますが、説明会参加者の内訳から、他大学出身者や外国人留学生の関心が高まりつつあることが窺われます。
 2017年12月から「芸術と憲法を考える連続講座」を主催・楽理科、共催・自由と平和のための東京芸術大学有志の会で行っています。月一回程度、主として学外の研究者、芸術家、言論人などを招いてトークとディスカッションを行うもので、これは一般に公開されています。


楽理科の現状

2018年5月8日現在

講座編成

第1講座 体系的音楽学 教授(兼) 植村 幸生(主任)
    教授 福中 冬子
第2講座 西洋音楽史 教授 土田英三郎(主任)
    教授 大角 欣矢
    准教授 西間木 真
第3講座 日本・東洋音楽史 教授 塚原 康子(主任)
    教授 植村 幸生

学生数

  • 学部入学定員 23名
  • 学生総数 144名
    (学部101名、修士課程15名、博士後期課程21名、研究生7名)
  • 外国人留学生総数 13名
  学部             修士    
  学部1年 学部2年 学部3年 学部4年 学部5年 学部6年 学部9年 修士1年 修士2年 修士3年
総数 24 23 23 24 4 2 1 4 10 1
男子内数 6 2 5 8 1 1 0 1 3 1
女子内数 18 21 18 16 3 1 1 3 7 0
留学生内数 0 0 0 0 0 0 0 0 2 1
  博士           研究生
  博士1年 博士2年 博士3年 博士4年 博士5年 博士6年 研究生
総数 3 7 1 6 2 2 5
男子内数 0 4 1 1 0 1 1
女子内数 3 3 0 5 2 1 4
留学生内数 1 1 0 1 0 0 5

芝祐靖先生に文化勲章

塚原康子

 芝祐靖先生に、2017年度の文化勲章が授与されました。宮中儀式にとどまらず積極的な演奏活動を展開するとともに、創作や廃絶曲の復元などに取り組み、雅楽の可能性を発信した功績が評価されたものです。雅楽分野では初の受賞であり、楽理科開設授業「雅楽Ⅰ・Ⅱ」を通して多くの学生が教えを受けた楽理科にとっても、誠に喜ばしいできごとでした。
 芝先生は、東儀和太郎先生の後任として、1978年から1994年まで芸大で雅楽授業を担当されました。1994年に邦楽科に雅楽専攻が新設された後は所属が邦楽科に移り、雅楽専攻生を2000年まで指導されました。
 楽理科時代の雅楽受講生には、現在、芝先生が音楽監督を務める伶楽舎で活躍中の宮丸直子さん、中村仁美さん、平井裕子さんら楽楽理会出身の雅楽奏者も含まれています。また、受章直後の2017年12月に刊行された『伶倫楽遊―芝祐靖と雅楽の現代』(アルテス・パブリッシング)の編著者・寺内直子さんも受講生の一人でした。同書には、南都楽家・芝家のこと、楽理科時代の雅楽授業の様子、伶楽舎の活動等に加え、附録として芝先生ご自身の文章の抜粋と作品目録、伶楽舎のコンサート一覧、主な録音一覧も収録され、芝先生のこれまでの歩みと多岐にわたる活動がよくわかります。
 芝祐靖先生のご健勝と今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

訃報

 楽理科の常勤教員を務めた本学名誉教授の上参郷祐康先生が、4月16日に逝去されました。享年83歳でした。
 上参郷先生は、1984年から2002年まで日本音楽史を担当され、多くの学生を育てられました。謹んで哀悼の意を表します。