第13号

楽理科からのご報告

大角 欣矢(楽理科主任)

 昨年度まで3年間にわたり学科主任をお務め頂いた福中冬子先生に代わり、この4月より主任を引き継ぎました大角欣矢です。微力ながら精一杯務めて参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

1.楽理科を巡る動き

 次項で述べるように、昨今、大学を巡るさまざまな新しい動きがありますが、それによって楽理科が大きな変化を被るといった事態は今のところなく、大枠ではこれまでの教育研究を継続することができています。
 今年度に迎えた入学者数は別表の通りです。6月20日には大学院音楽研究科の学科説明会が行われ、学内外から18名が参加し、希望する教員との面談も行われました。一方、学部の学科説明会は7月25日に行われ、133名(うち生徒76名)の参加がありました。昨年度の参加者が78名(うち生徒47名)でしたから、大幅な増加となり喜ばしい限りです。
 また、今年度は藝大初となる音楽学部のオープンキャンパスが7月27〜28日に行われ、その枠内で楽理科は講義形式の模擬授業2コマ、ガムランの実技体験も交えた模擬授業1コマを開催致しました。前者は各40〜50名、後者は20名と、それぞれほぼ参加定員を満たし、また授業後には在学生とのフリートークも行われ、楽理科への志望動機、受験準備、学生生活など多岐にわたる話題で大いに盛り上がっていました。


2.大学・学部全体を巡る動き

 すでに報道や大学ホームページ等を通じご存じの方も多いと思いますが、ここ1年ほどの間には大学を巡るさまざまな新しい動きがありました。特に、文部科学省が一昨年打ち出した「国立大学改革プラン」に基づき、国立大学の「選別」が本格的に始動しました。とても報告しきれないほど多くのことがありますが、楽理科と関係のある事柄に絞っていくつかご報告いたします。

(1)「スーパーグローバル大学創成事業」と「国立大学の機能強化」

 本学は昨年度、10年間の予定で実施される文部科学省の「スーパーグローバル大学創成事業」対象校に採択されました。対象となった国公私立37大学の中では唯一の芸術系大学です。さらに平成27年度概算要求では、「国立大学の機能強化」において、世界水準の教育研究活動の飛躍的充実を目指す14大学の一つとして選定されました。これらを受け、海外の協定校等からの教員ユニットの招致や、学生の海外渡航支援などのプロジェクトが始まっています。先日も、英国王立音楽院から、副学長で音楽学者・鍵盤奏者のティモシー・ジョーンズ氏が来日、特別講座をご担当頂きました。また、大学からの支援を受けて調査や学会出席のための短期渡航並びに留学で渡航する楽理科学生・大学院生も増えました。
 一方、実技系学科では、選抜された小中学生に対するレッスンを本学実技系教員が地方に赴き行う「早期教育プロジェクト」が始まっています。これは言うまでもなく、近年の藝大志願者数減少に対する危機感の表れです。
 いずれにせよ、「スーパーグローバル」といい「機能強化」といい、特別なプロジェクトや新しい仕組み作りのための追加の予算措置であって、それに対して大学の基盤的な経常予算に関しては依然として縮小傾向が続いており、大学は引き続き厳しい経営を迫られています。楽理科でも、残念ながら、少しずつ開設授業経費の削減などの対応をせざるを得ない状況となっています。

(2) 国際芸術創造科アートプロデュース専攻の設置申請

 本学におけるもう一つの特に大きな変化として、大学院の新しい研究科、「国際芸術創造科アートプロデュース専攻」の設置申請があります。これは、音楽・美術・映像といった従来の区分を横断する形で「芸術と社会との新しい関係を提案する人材を育成することを目指す」もので(本学ホームページより)、キュレーション、アート・マネジメント、リサーチの三つが研究領域として設定されています。そして、音楽学部音楽環境創造科から2名、大学院音楽研究科音楽文化学専攻応用音楽学から1名の常勤教員がこの新しい研究科に移籍する予定です(詳しくは大学ホームページをご覧ください)。
 現在、文部科学省大学設置・学校法人審議会による審査を受けているところですが、認可が下りれば平成28年4月よりスタートすることになります。また、これに伴い、従来の応用音楽学および芸術環境創造の各分野は募集が停止されています。従来、アート・マネジメント、文化政策、音楽社会学、メディア文化論等についての研究を深めるため、大学院で応用音楽学や芸術環境創造の分野を目指す楽理科学生も少なくなかったわけですが、もしこの新研究科が設置されれば、今後はそちらがそうした学生の受け皿になって行くことになるでしょう。

(3) 教員組織の改編

 これは、学長のガバナンス強化、及び「学内資源の適正な配分」を目的として行われた組織改革で、教育組織と教員組織を分けるというものです。教育組織は今まで通りの学部・研究科が存続しますが、教員は「芸術表現学系」「芸術理論学系」など、全学的な三つの「学系」に所属し、その人事には学長及び理事が大きな権限を持ちます。今までにも増して、健全な大学運営がなされるよう注意深く見守る必要がありそうです。

(4) セメスター制の導入について

 今年度より、国際化に対応するため、通史など継続性が重要な授業科目以外は原則として半期毎に単位を出すセメスター制が導入されました。ただし、授業開設の枠組そのものには大きな変更はありません。

(5) 音楽研究センターの改編

 長年、音楽研究センターの助教としてお勤めくださった関根和江先生が、昨年度末をもって退任されました。先生には改めて、長年にわたる音楽学部への教育研究支援に対し心から感謝申し上げます。残念ながら、大学の予算削減の流れを受け、先生の後任にあたる常勤教員の採用は見送られ、今年度より、関根先生の担っておられたお仕事の一部は、音楽学部のプロジェクト組織である音楽創造・研究センター特任助教の山岸佳愛さんが引き継いでくださっています。この組織は、実技系院生の学習研究やセルフ・プロデュースの支援、並びに音楽学部の社会発信の機能を担うもので、今後、音楽研究センターはこうした機能を担う部分と、今まで通り学部図書室や音響研究室としての機能を担う部分、そしてアーカイブセンターの一部として学部全体の音響資料のデータ管理を担う部分に分かれて活動を続けて行きます。図書室機能の部分では、来年度以降、附属図書館と協力して利用者サービスを行ってゆくことも計画されています。

(6) 附属図書館の改築について

 本学附属図書館の改築が、平成27年度国立大学等施設整備実施事業に採択されました。2年間の工期を予定している第一期工事では、上野公園側に面した旧芸術資料館を取り壊し、そこに地上3階(積層書架の中間床も数えれば4階)地下1階の建物を新設、まずは図書館がそこに引っ越して利用者サービスを開始します。第二期として構想されている現図書館部分の改築が終了した暁には、アーカイブ機能、研究室機能、社会発信機能などが盛り込まれた「芸術リソース・センター」が本格始動することになります。ただし、昨今の建設費高騰の煽りを受け、建設計画は難航を余儀なくされており、最終的な完成までにはなお紆余曲折が予想されます。


3.国際音楽学会2017年東京大会について

 昨年度の『楽楽理会通信』でもお知らせいたしましたが、2017年3月19日(日)〜23日(木)の4日間、本学上野校地で第20回国際音楽学会が開催されます。1927年の創設以来、ほぼ5年に一度の頻度で開催されてきた本大会がアジア地域で開催されるのは初めてのことで、日本音楽学会、国際音楽学会、東京藝術大学音楽学部による共同主催の下、楽理科常勤教員からも実行委員が出て様々な準備を進めています。大会での発表はIMS会員に限りませんので、日本の研究者の皆様の積極的な参加を期待しています。演題登録その他詳細についてはhttp://ims2017-tokyo.org/をご覧ください。


楽理科の現状(在籍者数)

  • 学部入学定員 23名
  • 学生総数 150名
    (学部95名、修士課程21名、博士後期課程30名、研究生4名
  • 外国人留学生総数 10名
  学部             修士    
  学部1年 学部 2年 学部 3年 学部 4年 学部 5年 学部 6年 学部 8年 修士1年 修士 2年 修士 3年
総数 24 23 23 22 1 1 1 12 7 2
男子内数 8 4 4 3 0 0 0 5 4 2
女子内数 16 19 19 19 1 1 1 7 3 0
留学生内数 0 0 0 0 0 0 0 3 0 0
  博士             研究生
  博士1年 博士 2年 博士 3年 博士 4年 博士 5年 博士 6年 博士 7年 研究生
総数 6 6 5 6 4 1 2 4
男子内数 1 2 2 1 1 1 1 3
女子内数 5 4 3 5 3 0 1 1
留学生内数 1 1 1 0 0 0 0 4

あな おもしろ あな さやけ ― 音研センター退任の挨拶にかえて

関根 和江

 学部入学直後から、大学院、0室時代とお世話になり、一時社会に出て離れたあと、教員として舞い戻り、その後常勤という責任ある立場で関わることになった音楽研究センター(音研センター)。いつも温かく迎えてくれる場所であり、自らもそれを継承すべく務めてきた。
 生活のほぼ全てをそこでの仕事に向けていたといっても過言ではない場所、音研センターから離れ、サンデーまいにちとなった時、自分をコントロールできるのだろうかと心悩ます時期もあった。しかし、この4月からの穏やかな日々を省みるに、心配することなど微塵もなかったと実感している。もろもろの縛りから解放され、ゆるやかな時のうつろいを楽しむ。
 3月31日ラストデイは、引き継ぎと研究室の片付けに追われ、張りつめた気持ちのまま、感謝の念で音研センターに最敬礼。ああ、これで一つピリオドを打てたなと、心地よい疲労感に包まれていた。
 翌日、見回せば持ち帰った段ボールの山また山。同居猫ら(みけこ、ブーブ、てん、しっぽ、くうの5猫)が格好の遊び場としたのは予想通りである。
 現在は、福岡県みやこ町愛郷音楽祭の監督を拝命し、地元の皆様のお力添えにより、ありがたいことに自分が心から楽しめる企画を進めている。みやこ町は神楽が盛んで町にはいくつもの神楽講があるが、ご多分にもれず後継者不足という切実な問題に直面している。その伝承も視野に入れつつ、神楽と洋楽のコラボレーション「神楽オペラ」を創作し、町民の町民による町民のための音楽活動のサポートを行っている。楽理科、音研センターで学んだことをフル回転させながら、大いに飛翔している感がある。今年合併から10周年を迎えるみやこ町では、記念事業の一つとして、12月20日に神楽オペラ2作の同時上演が計画されている。
 楽理科諸氏は、唱歌「埴生の宿」「庭の千草」をご存じであろう。みやこ町出身で、音楽取調掛教授として唱歌作詞に力を尽くした里見義(さとみ・ただし)の作品である。里見についての調査研究は今も継続中の課題である。この場をお借りして特に氏の墓所について情報提供を求めたい。
 音研センターはわが心のふるさとである。今後たとえ形は変わっても、藝大にあって、悩み立ち止まったとき、まず思い出し足を向けてみる場所、ぬくもりのある空間であり、研究・学習を支える頼もしい中核であり続けてほしい。音研センターのますますの発展を心から祈念する。