第14号

新会員からの寄稿

きらめく知のアゴラ

村岡 南(学部1年)

 楽理科の存在を知ったのは高2の夏だった。自分が演奏家や教育者となることにどこか違和感を感じていた私は、研究者として音楽に携わる音楽学という分野に吸い寄せられるようにしてこの学科を志望した。
 芸大に入って最も実感したのは、芸術に触れる機会が大変多いということだ。毎週のように奏楽堂で質の高い演奏を聴くことができ、近隣の美術館や博物館で素晴らしい作品の数々と出遭うことができる。これほど恵まれた環境は他に無いだろう。最近は、録音された音に慣れてしまった生活の中で生演奏の魅力を再発見している。特に録音や文献などでしか知らなかった音楽を実際に生で聴くと、今まで気が付かなかったことが見えてきて面白い。
 これまで極めて限定的で狭い範囲しか見えていなかった私の音楽の視野は、楽理科に入った途端急に広がった。閉ざされていたいくつもの扉が、入学と同時に一気に開いたような感覚さえある。楽理科最大の特徴とも言える西洋音楽だけに留まらない広範な分野の授業では、毎時間未知の視点を知り刺激が絶えない。またそのような刺激に対する自分の反応も新鮮で、授業は新しい知識を得ると同時に自分の新たな一面を見つける場にもなっている。また、高校までとは違い空き時間が多い大学ではその時間を使って人と話すことができるため、かつてないほど音楽について語る頻度が高くなった。言葉にして語ることで、今まで感覚的にしか捉えていなかった音楽の印象をより具体的に自覚することができる。そのため、意見を交わすことは自分が何を感じ、何を考えているのかを知る良い機会となる。楽理科の仲間とは、各個人の持つ様々な興味関心について語り合うことができるのでとても嬉しい。
 このように充実した毎日を過ごす中で、密かに気づいたことが一つある。それは日々流れ込んでくる大量の情報で頭の中を満たすだけでは、それらを会得していることにはならないということだ。与えられた情報を自らの糧にするには、能動的にそれらを吸収する必要がある。そのため図書館などを活用し、様々な事柄を深めていきたい。また、何事にも興味を持つだけではなく、自分にとって最も魅力的で興味の湧くなにかを見つけることにも力を入れていこうと考えている。芸大では各分野の第一線で活躍している先生や先輩、そしてゲストの方々のお話を伺う機会も多い。その方々の生き方や考え方を参考にしながら、自分の心の向く方向を丁寧に見定めていきたい。


自分の可能性を信じ、藝大の大学院に進学して

今関 汐里(修士1年)

 新しい環境で、大学院生としての生活が始まって3カ月が経った。他大学から進学したため、右も左もわからない状態でスタートを切り、生活環境や授業カリキュラム、施設利用の方法、授業の内容等など、すべてが新しく戸惑いの連続だった。その新しい環境に早く馴染みたくて仕方がなかったからか、それともただ単に新しい生活に対して焦っていたからなのか、どちらにせよ毎日息つく暇もないほどに忙しかったように思う。
 私はもともと大学2年次までピアノを専攻していた。単純に、ピアノを弾くことが大好きだったゆえに選んだ道だった。しかし、3年次になって、受講していた音楽史や楽曲分析に関する授業に興味を持って「ピアノを専攻していた経験を基に、自分にしかできない研究がしたい」と思い、音楽学へ転科するに至る。そのため、音楽学を専攻していく上での基礎知識や語学力には、もともと強い不安を感じている。藝大大学院の入試の時にも、最善は尽くしたが、それでも努力と実力、双方の不足を痛感した。合格が発表されたとき、「このまま大学院に進んでも、自分は何も出来ずに、何も知らずに終わってしまう。」と感じ、何とかして入学までの期間でその穴埋めをしようと試みた。
 この思いはおそらく、当時の私の心の焦りを表わしていたのだろう。今では、もちろん努力は継続中であるものの、当時ほどの切迫感もなく(もちろん課題に切迫しているときもあるが)、未知なる世界の広がりを新鮮な気持ちで楽しめているように思える。自分がこれまでに知り得なかった知識や情報を、授業で先生方や先輩方から教えていただけることで、自分の課題が更に明確になり、今後の勉強の指標になっていると感じる。視野が広がり、それまで見えてこなかったものが見えるようになったり、考えつきもしなかったアイデアが頭に浮かぶようになったりしてきた。もちろん課題は依然として山積みであり、時に自分の欠点ばかりが気になることもある。ただそれらを自らの伸びしろと捉え、前向きに一歩ずつ進んでいこうと思えるようになった。
 藝大の大学院に進んだことで、私の見てきた世界は宇宙のように広がっていっているのではないだろうか。その無限の可能性を広げた人物は他の誰でもなく、大学院入試に果敢に挑んだ自分自身である。自らの力を高めるための勉強に終わりはない。自分の無限大の可能性を信じて、度胸と根性を糧に、今後も研究に励んでいきたい。


お知らせ

第20回国際音楽学会東京大会(IMS 2017 TOKYO)開催のお知らせ

 2017年3月19日(日)~23日(木)の5日間、本学上野校地で国際音楽学会(IMS = International Musicological Society)の第20回大会「音楽学:東西の理論と実践」が開催されます。5年に一度開催される本大会がアジアで開催されるのは初めてのことであり、日本にいながら世界の音楽学の最前線に触れられる貴重な機会です。本大会は国際音楽学会、日本音楽学会、東京藝術大学の共催として開催され、楽理科常勤教員も実行委員として準備を進めています。
 会期中には、個人発表のほか、ラウンドテーブルやスタディーセッションなどが組まれ、世界各国から500名を超えるスピーカーが登壇予定です。また、4つのコンサートも企画されており、たいへん充実したプログラムとなっております。
 2016年9月1日より参加登録が始まります(早期割引は12月19日まで)。みなさまの積極的な参加をお待ちしております。
 詳細は、以下の大会ホームページをご参照ください。
http://ims2017-tokyo.org/

 また、本大会の開催には総経費3000万円が見込まれていますが、自己資金には限りがあり、諸団体・個人の助成・ご寄付に頼らざるを得ないのが現状です。本大会の意義をご賢察のうえ、ご支援頂ければ幸いです。
http://ims2017-tokyo.org/donation/


柴田先生・横道先生生誕100周年記念イヴェントのお知らせ

 2016年は、楽理科の教授を務めた柴田南雄先生、横道萬里雄先生の生誕100周年にあたります。それを記念し、それぞれ以下のイヴェントが企画されています。楽理科の公式行事ではありませんが、ご興味のある方は、ぜひ足をお運びください。
・柴田南雄先生
山田和樹プロデュース 柴田南雄 生誕100年・没後20年記念演奏会(11月7日)
http://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20161107_M_3.html
・横道萬里雄先生
楽劇学会第92回例会「横道楽劇学の再検証 ―能<鷹姫>をめぐって―」
http://www1.odn.ne.jp/~gakugeki/reikai.html
<パネリスト>野村萬氏 観世銕之丞氏 岡本章氏 羽田昶氏 高桑いづみ氏
10月11日(火)国立能楽堂・大講義室にて、午後6時30分~8時30分を予定


編集後記

 『楽楽理会通信』第14号をお届けします。デジタル版のミニ広報誌は、紙媒体時代と同じく、毎年7月末発行です。
 本号には、楽楽理会の第2代会長としてご寄付の呼びかけやデジタル版移行にご尽力くださった前和男先生の追悼記事を掲載しました。一周忌を前に、改めてご冥福をお祈り申し上げます。
 また、今年も新入会員の西間木真さん、村岡南さん、今関汐里さん、卒業生の豊田耕三さん、荻野珠さんにご寄稿いただきました。皆さま、ありがとうございました。今後も会員の多彩な関心や活動から、楽理科および楽楽理会の「今」をお伝えしていきます。どうぞ引き続きご支援のほどお願い申し上げます。

発行:楽楽理会(会長・加納民夫)
編集:土田英三郎、塚原康子、越懸澤麻衣、鎌田紗弓
2016/07/29発行